【現場レポート】令和元年度「津波防災の日」スペシャルイベント

津波×地域防災×企業

 「津波防災の日」「世界津波の日」である11月5日、東京都新宿区において、地域における津波の備えについて考える令和元年度「津波防災の日」スペシャルイベント『津波×地域防災×企業』が開催されました。
 このイベントでは、「地区防災計画策定支援地区の取組紹介」、「地域と民間企業等との協働による津波防災」についての特別セミナーと、津波防災の取組の最先端を発信する企業ブース展示会が開催されました。
 当日は、民間企業や団体、研究機関、行政機関、メディア等から283名の参加がありました。

特別セミナー

 冒頭、イベントの開会にあたり、主催の内閣府 武田 良太 特命担当大臣(防災)が挨拶を行いました。
 武田大臣は、内閣府は地区防災計画を通じて、地域での津波への備えが増えるよう支援することを述べました。また、最新技術やノウハウを積み上げた民間企業や学術界の有する優れた防災技術が津波対策に大いに貢献されており、企業の技術と地域防災とを掛け合わせることで、産官学が連携して、津波に備えるためのより効果的な津波対策を探究していきたいと述べました。

基調講演「我が国の津波災害リスクと自助・共助」

 今村 文彦 東北大学 災害科学国際研究所所長より、「我が国の津波災害リスクと自助・共助」と題した基調講演が行われました。
 東日本大震災を振り返るとともに、津波が低頻度大災害であり人的被害が非常に大きい災害であること、その一方で、共助教訓を活かし適切な避難行動をとることで人的被害をゼロにすることが可能であることなどについて述べました。
 また、震災から8年経ち、当時の記憶が薄れてきていることについて触れ、経験を一般化して、知識として次世代に伝えることの重要性と、そのための支援、連携が必要であることを説明した上で、次世代まで教訓を伝えるために検討している震災伝承モデルについて紹介しました。

地域防災計画策定支援地区の取組状況

 セッション①では、加藤 孝明 東京大学 生産技術研究所 教授/社会科学研究所 特任教授より、「地区防災計画の現状と課題」と題した講演が行われました。加藤教授は、地区防災計画のつくり方のポイント、地区防災計画の背景と目的や、今後の課題として「共助への盲目的期待」が禁物であることを述べました。

 その後、津波に備える地区防災計画の策定に取組む7つの地区から、それぞれの地域特性や災害リスクを踏まえた取組状況について報告されました。加藤教授をモデレーターとし、各地区を支援するアドバイザーの3名(鍵屋 一/跡見学園女子大学 観光コミュニティ学部 教授、阪本 真由美/兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 准教授、早川 直喜/札幌市 危機管理対策室 防災推進担当課 係長)も加わり、意見交換が行われました。

 戸田地区のように吸収合併された市町村が抱える問題や、沖縄のように外国人観光客が多いエリアでの津波避難など共通の課題、防災施策の多くは答えがない課題に対応する必要があり、一つずつの議論のプロセスが重要であることなど、白熱した議論が交わされました。

津波防災における企業と地域との連携について

 矢守 克也 京都大学 防災研究所 巨大災害研究センター 教授より、「津波防災における企業と地域との連携について」というテーマでの講演がありました。日本一高い津波想定が出て、日本一高い津波避難タワーを作った黒潮町における、日本一の津波防災・地区防災を目指す地域の取組が紹介されました。
 矢守教授は、34メートルの津波高をブランド化し、企業と連携した備蓄用缶詰の開発、防災製品の日常活用に係る検討、地元の工務店と町で連携した木造住宅の耐震化推進、砂浜美術館の活動等の多様な取組を通じて、防災・観光・地域活性化をオーバーラップさせながら、黒潮町の地域防災が進んでいることなどを報告しました。

パネルディスカッション「地域と民間企業等との協働による津波防災」

 セッション②のメインプログラムとして、津波防災に取組む企業を招き、「地域と民間企業等との協働による津波防災」をテーマにパネルディスカッションが行われました。
 はじめに、津原 賢治/西日本旅客鉄道株式会社 主査、上田 奈穂子/イオン株式会社 グループマネージャー、妹尾 義之/株式会社構造計画研究所 専門役 兼 支社長、寺脇 学/八千代エンジニヤリング株式会社 課長、福島 直央/LINE株式会社 室長、小島 一哉/大阪ガス株式会社 主席研究員より、各社の津波防災に係る取組について紹介されました。多種多様な企業から、企業、地域、津波防災という観点で、IoT・SNS活用、津波シミュレーション、防災モール、防災訓練等様々な取組が紹介されました。
 その後、矢守教授をモデレーターとして、磯打 千雅子 香川大学 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 地域強靭化研究センター 准教授と、内閣府 中尾 晃史 参事官(普及啓発・連携担当)も加わり、津波防災に関する企業と地域の取組と連携についてのパネルディスカッションが実施されました。
 「企業の本業での得意分野を活かした取組が効果的である」、「拠点のある周辺地域の方々と地域防災に取り組んでいくことが大切である」などといった意見が挙げられ、それぞれの業種や経験を踏まえた意見交換がなされました。

 最後に、中尾参事官より、地区ごとのオリジナルな計画作成の重要性、地域資源の一つである企業も地区の中での重要なプレイヤーであることを述べ、様々なプレイヤーの方がいることを念頭に置いてこれからも津波の対策を進めていただきたいという旨の挨拶があり、特別セミナーを終了しました。

企業ブース出展

 津波防災の取組の最先端を発信するため、企業ブースの展示会が同時開催されました。インフラ・通信関係、津波シミュレーション関係、防災アトラクション等の取組を行っている計11社のブースを来場者にご覧いただきました。

  • ①AI防災協議会

    AI技術やSNS等を活用した防災・減災の取組
    台風19号に係る被害状況に関する調査結果
    チャットボットを利用した情報提供

  • ②KDDI株式会社

    ドローンに小型の携帯電話基地局を搭載した無人航空機型基地局の紹介
    海上から被災地の通信を支援する船舶型基地局の紹介

  • ③ART和HEART株式会社

    一台で24台のスマホを充電でき、AC電源、車、ソーラーパネルの3way充電に対応した「防災用品の必需品」の紹介

  • ④イオン株式会社

    毎日の食事が非常食に変わるローリングストック、外部連携防災訓練、全国防災キャラバン等の紹介

  • ⑤株式会社フラップゼロα

    臨場感あふれる体験から学ぶ防災アトラクション
    目の前の風景に津波やがれきが流れてくる様子が合成されるAR(拡張現実)浸水体験

  • ⑥西日本旅客鉄道株式会社

    沿線自治体との合同津波避難訓練の映像紹介、運転士訓練用VRの疑似体験、くろしお号に設置した避難リーフレット

  • ⑦八千代エンジニヤリング株式会社

    津波解析手法高度化に向けての取組
    防災アプリ、大阪市内の「津波・高潮ステーション」の紹介

  • ⑧株式会社RTi-cast

    リアルタイム津波浸水・被害推定システムの紹介
    高知県での震災対応訓練での活用紹介

  • ⑨株式会社構造計画研究所

    プロジェクションマッピングを利用した、津波避難シミュレーション・河川水位予測結果の紹介

  • ⑩株式会社オリエンタルコンサルタンツ
    /国土防災技術株式会社

    津波避難シェルターの紹介
    津波防災宝探し(虹松プロジェクト)の紹介

パネル・パンフレット展示

 会場後方では、今年度の支援対象地区について紹介するパネル展示と合わせてパンフレットを設置し、来場者にご覧いただきました。
 また、受付部屋では、津波災害の経験を伝える伝承施設の紹介をするコーナーが設置され、ポスターやパンフレットをご覧いただきました。