【現場レポート】平成30年度「津波防災の日」スペシャルイベント

最新科学×津波×地域防災

「津波防災の日」「世界津波の日」である11月5日、川崎市において、地域における津波の備えについて考える平成30年度「津波防災の日」スペシャルイベント『最新科学×津波×地域防災』が開催されました。
このイベントでは、「地域で津波に備える」をテーマに、津波の最新科学や全国の地区防災計画の取組みを紹介する特別セミナーと、学校や地域で活用できる津波防災教育ツールミニ体験会が開催されました。
当日は、民間企業や団体、研究機関、自主防災組織、行政機関、メディア等から、363名の参加があり、会場は熱気に包まれました。

特別セミナー

冒頭、イベントの開会にあたり、主催の内閣府 舞立昇治大臣政務官と共催の川崎市 福田紀彦市長が挨拶を行いました。
舞立政務官は、日本の総合的な防災力の向上には自助・共助を支える地区防災計画の取組みが大いに有効であり、最新の科学技術を地区防災計画と掛け合わせることにより、津波に備える効果的な施策を探求していきたいと述べました。
福田市長は、今回のイベントで得た情報をそれぞれの地域や企業で活用し、津波で死者を出さないという取組みにつなげていただきたいと述べました。
続いて、今村文彦 東北大学災害科学国際研究所 所長より、9月28日に発生したインドネシア地震津波の緊急報告が行われました。被害の大きかった島中部の都市パルには、地震からわずか6分で津波が到達し、地すべりや地盤沈下、液状化の複合災害となっていたこと等が報告され、今後は、地域開発を含めた復興を進める必要があると述べました。

『地域における津波防災の取組みと地区防災計画の役割』

最初のセッションでは、矢守 克也 京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 教授より、「本当に人の命を守る津波避難訓練を」と題した講演が行われました。矢守教授は、高校生が避難訓練アプリ「逃げトレ」を活用して地域の高齢者の避難を補助する津波避難訓練や、まずは玄関先に出る「屋内避難訓練」等の事例を紹介し、新しい津波避難訓練の可能性を述べました。

その後、津波に備える地区防災計画の策定に取組む6つの地区から、それぞれの地域特性や災害リスクを踏まえた特色のある取組みが報告され、続いて矢守教授をモデレーターとし、6地区の代表者に今村所長、佐谷説子 内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(普及啓発・連携担当)も加わり、意見交換が行われました。「楽しく真剣に防災を進める」事例として、雪かきボランティアと豚汁の食事を冬季避難訓練に組み合わせることにより訓練への参加を促すというウトロ地区の事例が紹介されるなど、各地区のユニークかつ具体的な試みが次々に報告されました。

『川崎市の津波防災~企業・地域での最新科学活用に向けて~』

次のセッションでは、まず高橋 実 川崎市総務企画局危機管理監から、川崎市臨海部の概要と津波の被害想定、現在扇町地区で進められている津波防災対策の取組み等について報告がありました。

後半は、今村所長より、産官学で取り組む「川崎臨海部におけるICT活用による津波被害軽減に向けた共同プロジェクト」について講演が行われました。プロジェクトでは、複雑な臨海域での津波の挙動を踏まえた避難シミュレーションを実現し、12月に川崎市内で避難支援スマホアプリを活用した実証実験を行う予定を紹介されました。今後は、避難支援の効果的手法の検討や、避難行動を予測するシミュレーションモデルの高度化に取組み、川崎臨海部及び他地域の防災力の強化に貢献していきたいと述べました。

パネルディスカッション『地域・企業・学校における これからの津波防災』

最後に、これまでのセッションの講演や報告を踏まえ、「地域・企業・学校における これからの津波防災」をテーマにパネルディスカッションが行われました。
矢守教授をモデレーターとし、今村所長、高橋危機管理監、佐谷参事官に加え、加藤孝明 東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター 准教授、橘香樹 JFEスチール株式会社東日本製鉄所(京浜地区)環境防災部 副部長を迎えて、「地域と企業の連携で津波防災をどう進めるか」や「津波防災における学校の役割」について活発な議論が行われました。「観光地などでは地域社会と企業との連携は自然に成り立っているものの、津波防災に関しては意見が対立する場合があるため、地域を構成する様々な立場の人が本音で話せる場を設けることにより、連携を深めることが大切。」といったご意見等、パネリストのそれぞれの経験を踏まえた意見交換がなされました。

  • 京都大学
    矢守教授
  • JFEスチール(株)
    橘氏
  • 東京大学
    加藤准教授
  • 東北大学
    今村所長
  • 川崎市
    高橋危機管理監
  • 内閣府
    佐谷参事官

最後に今村所長から、今回学んで気づいたことを行動に移してほしいという強いメッセージが込められた閉会の挨拶をいただき、特別セミナーを終了しました。

津波防災教育ツールミニ体験会

会場では、地域の津波リスクや津波避難を学ぶゲーム、地区防災計画の検討に活用できる支援ツールを紹介する5団体のブース出展による「津波防災教育ツールミニ体験会」が同時開催され、来場者に各種ツールを体験いただきました。

① 東北大学災害科学国際研究所

津波シミュレーションや、被害を低減させるための行動を考え、実践する力を育てるクイズや減災スタンプラリー等の防災教育ツール

② 国立研究開発法人防災科学研究所「地域防災Web」

地域の災害特性に関する情報をはじめ、必要な防災対策とその実行に参考できる全国の実践事例や手法などの情報コンテンツ

③ (一社)防災教育普及協会「このつぎになにがおきるかな(国土交通省)」/「目黒巻き(目黒研究室)」/「FLAGO(防災ガール)」

防災教材活用ガイドチャートなど、様々な組織団体の方々作成された教材の「活用方法のコツ・工夫、実践例」

④ 神戸市消防局「ダイレクトロード海辺の町」

巨大地震が発生して混乱した海辺の町を舞台に、災害への対処方法を見つけるカードゲーム

⑤ (一社)子ども安全まちづくりパートナーズ「逃げ地図」

目標避難地点までの時間を色鉛筆で塗り分けることで、直感的に危険な場所と逃げる方向を理解できる地図